思月空夢10


兄さんが近くにいる、暗くて良く見えないけれど

そんな気がする



「うわっ」

「きゃ」

私にドンと前から誰かがぶつかってきた

異常な早さだったため人だと認識するまで

少しかかった

「誰です」

「えっ?

その声は秋葉か、何でここに来たんだ」

「兄さん?」

普段とは比べ物にならないくらい冷たい雰囲気

昨日模擬戦の時に一度見せたあの感じだ

此方に振り向いてくれないため声を聞くまで分からなかった



「秋葉、ここは危険だすぐに逃げろ」

言い終わると同時に金属のぶつかる音がして

火花が散った

襲ってきた人を見ると見覚えのある顔をしていた

「貴方、誠さん」

「チッ邪魔なのがまた増えたのか」

誰だ、誠さんはこんな乱雑な言い方をする人ではなかった

偽物

違う、あの兄さんが偽物と本物を間違えるはずがない

とすれば・・・

「!!」

誠さんが突然方向を変え此方に突っ込んできた

私は寸前で反応して回避できたけど

翡翠や黒桐さんたちは大丈夫だろうか



振り返ると誠さんが翡翠の首筋に小太刀を突きつけていた



「遠野志貴、逃げ回るのもそこまでだ、

まだ逃げ回るならお前の代わりにこいつらを

殺してやる」



これでは迂闊な行動は取れない

琥珀をちらりと見ると此方を見てかすかに頷き

誠さんの後ろに回り込む

固有結界の護符を捨て名前を呼ぶ

「琥珀!!」

そう叫んで檻髪の力を使う

もちろん略奪するわけではなく動きを封じるためだ

ドンと音がして琥珀が誠さんに後ろから体当たりした

「さすが、琥珀ね」

長年一緒に居ただけの事はある

こちらの考えはお見通しと言ったところか

しかも離脱するときにVサインを出す余裕・・・

誠さんがひるんだ隙に檻髪を手足に巻き付ける




「なんだ?」

翡翠を放り出した誠さんの手足に

赤い髪の毛のような物が巻き付いて動きを止める

隙を見逃さずに倒れている翡翠を抱き起こす

「翡翠、大丈夫か」

翡翠を抱えた手に血の感触がある

さっき誠さんから放り出されたときにどこか斬ったらしい

「翡翠、翡翠」

頭の中がパニックになって翡翠の名前を連呼していた

「大丈夫ですよ志貴さん、肩を少し切ってしまっただけです」

いつのまにか近くに来ていた琥珀さんが声をかけてくれる

おかげで少し冷静になれた

「本当に大丈夫なの」

「ええ、命に別状はありませんしそれほど深くはありません

ですから、翡翠ちゃんは私に任せて志貴さんは誠さんの方をお願いします」



そうだ、誠さんの方も何とかしなきゃ

だけど誠さんの動きを封じているあの赤い髪の様な物はいったい

秋葉の力なのか?

秋葉のほうを見て背筋が凍ったあの綺麗だった黒髪が

鮮血を浴びたように真っ赤になっている

「秋葉、これはお前の力なのか」

「そうです、これが私の遠野の血による能力です

本当は兄さんに知られたくはなかったのですけど

翡翠を助けるためにはこうするしかありませんでしたし・・・」

・・・なぜだろう秋葉を見ているとおかしな感情に支配されそうになる

頭の中には”殺せ-殺せ-コロセ”と誰かの声が聞こえる

秋葉の顔色が悪い、能力の行使にはよほどに力が必要なのだろうか

秋葉に近寄ろうとしたとき足下に何かが当たった

「これは誠さんのくれた護符じゃないか、

ここに来るのすらこれが必要だったのに大丈夫なのか」



「はい、今は遠野の力を引き出してますから

少しの間でしたら大丈夫です、

それに護符を持っていると能力も使えませんし」

話している間にも秋葉の顔色は悪くなる一方だ

「うそをつくな!!

そんな顔色で大丈夫な訳無いだろう

もう力を使うのはよせ」

秋葉は嫌がっていたが強引に

護符を持たせる



その瞬間に誠さんは束縛から解放され間合いを離した

「チッそんな能力者がいるとは予定外だ、

特にその女のせいで予定が狂った」

「どう言う事だ」

「さてな、答える必要は無い、すでに姫君が予定どうり行動している時点で

お前達の全滅は間違い無いしな」

誠さんは去り際にそう言って姿を消した








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