思月空夢4


目的地に着いた僕たちは休憩を取っていた

「失礼します」

「皆様、準備が整いましたので広間にお越し下さい」

誠さんが僕たちを呼びに来た

「さて、今回の依頼者の所に行こうか」

眼鏡を外し橙子さんが部屋を出ていく

僕たちも後に続いた



広間で待っていると

女の人が入ってきて向かいの席に着いた

側には誠さんがいる



女性は藍色の和服で長い黒髪を首の後ろで緩く束ねている

切れ目で大人びたその顔はともすれば怖い印象を与えられるが

彼女のやわらかな笑顔はそれを帳消しにしてなんとも言えない

艶やかさを感じさせる

秋葉とは違う和風な良家のお嬢様といった雰囲気だ

個人的には秋葉にもこの人のことを少し見習ってほしい

「初めまして青葉 紗那と申します」

鈴の鳴るような高くて綺麗な声で女の人は名乗った

「久しぶりだな紗那」

「ええ、久しいですね両儀さん」

二人は知り合いらしく軽い挨拶をかわしていた



「それでは本題に入りましょうか」

「依頼内容は呪術道具を破壊していただきます

本来であればこちらの分野なのですが今回の品物は

とてつもない硬度を持っていて破壊できませんでした

そこで情報屋の方に相談したところ直死の魔眼という卓越した能力を持っている方が

いるとの事でしたので依頼いたしました」



「で、その能力者がこの二人両儀 式と遠野 志貴だ

同じ呼び名で悪い冗談に思えるがな」

橙子さんが僕と両儀さんを紹介した

紗那さんはこちらを見ている

「あっ」

思わず声を上げてしまった

二日前夢の中で見た女性と同じだと今思い出した

「どうした遠野、依頼主が綺麗すぎて惚けたか」

「いえ、なんでもありません」

後ろからの視線が痛いが無視することにした

「で、こっちの金髪の方が真祖の姫アルクェイド・ブリュンスタッド

青い髪の方が埋葬機関の第七司教のシエルだ

まあ、こちらの世界では知らない奴はいないから

名前だけで十分だな」

「よろしくお願いします」

「よろしくね」

「私の他にこいつら4人が今回の実務をしてくれる」

「後にいる男が事務担当の黒桐 幹也だ事務的な質問は彼にしてくれ

あとはおまけだ」

・・・・秋葉と鮮花さんがものすごく不服そうにしている



「なぜ私たちは参加できないんですか」

みんなの気持ちを代弁して質問する

「そもそも物一つ破壊するのにそんなに人手が必要なんですか」

いくら堅い物でも今いるメンバーであれば一人で事が足りるはずである

それなのにとてつもない能力者を四人も必要とし、自分たちは参加する事も出来ない

そのいらだちを橙子師にぶつける

「それは違うぞ鮮花、まあ内容を詳しく話していなかった私も悪いがな」

「話を聞けば納得するんですか」

どんな話を聞いても納得したくない

「話は最後まで聞け、まあ納得しなくてもお前達では戦力にならん事は分かるはずだ」

自分の眉毛がさらにつり上がるのが分かる

秋葉さんも同様で腕を組んで明らかに苛立っている

正座に腕組みはアンバランスなんだけど気にしない

「初めて聞く奴もいるから順を追って話すが、まあ我慢してくれ」

「まず破壊する物を詳しく説明するが、お前達”魔水晶”を知っているか」

たしか橙子師にもらった本に名前があったような気がする

「魔術を使用する際に自身の魔力の代替品となるものです」

「教科書通りの答えだな、その原理は分かるか」

「・・・」

分からない

「まあ仕方ない、そこまで知っている奴は少ないからな」

「シエルさんは知ってますか」

困ったときには何故か分からないけど

この人に聞いた方が良いような気がする

「もちろんです

エネルギーを集める機能と

そのエネルギーを魔力に変換して蓄えると言う

二つの機能これを兼ね備えたものを”魔水晶”と呼ばれます

分かりやすく言うと永久機関ですね 

空飛ぶ箒の基本理論であるとともに

これを核に置くことで結界を永久的に持続させたりと使用用途は多いです

これを考えたのはラプラスと言う人で

ヨーロッパにいた数学者です、魔術の世界で言えばアインシュタインのような人ですね」

「他にもホムンクルスの生成を説いたパラケルスなんて人もいました

まあエジソンみたいな人ですね」

「この二人が現代魔術の祖とされてます」

・・・・シエルさんを師匠にした方が良いかもしれない

そんな考えがが頭をよぎった

「さすが埋葬機関だな、今回の品物はさっきの物質を怨念に置き換えた物だ

ちなみに私の人形師としての研究もパラケルス無しでは魔術とはなりえなかった」



今までほとんど言葉を発しなかった式が口を開いた

「つまり怨念が増え続けてるって訳か」

「そうだ、物を破壊するために怨念をかき分けて行かなければなん

その為に思念体である怨念の見える魔眼保持者を選んだわけだ」

「いくら強力でも相手が見えなければ抵抗することは難しい

下手をすれば相手に感化されて敵対する可能性もあるわけだ」



「そういうわけでお前達は留守番だ」

悔しい、私に魔眼があれば同行できたのに

「それだけが理由とは思えませんが

何か隠していることが有るんじゃないですか」

秋葉さんが燈子さんにかみつく

「鋭いな、確かに他にも理由がある

今回の敵は先ほど言った通り思念体だ

精神の弱い者は感化される、弱みがある者も同様だ

例えば人に言えない隠し事とかな」

私と秋葉さんに“文句があるなら言ってみろ”とばかりの目つきで

答える



私は下を向いて黙り込む

橙子師の言ってる隠し事ってアレの事だろうし

横を見ると秋葉さんも顔を真っ赤にしている

・・・・・まさか秋葉さんも私と同じ趣味してるとか

「あはー二人とも似たような人に恋してるんですねー」

琥珀さんが私達をからかってわざとらしく言う

つまりそういう事か、お互い苦労しますね

「さて、話しも終わったし

仕事は明日行うからこれで解散だ」

橙子師は話が脱線する前に終わりを告げた




「皆様、誠の方に世話をさせますので居間の方でお休みになっていて下さい

それと両儀さんと遠野志貴さん少し残っていただいてよろしいですか」

この後周囲をアルクェイドと散策したかったがそう言われては断れない

「分かりました」

「ああ、手短に頼む」



みんなが席を外したあと、彼女は話しかけてきた

「久しぶりですね、と言っても貴方は忘れてしまっているそうですが」

「はい、小さい頃事故にあって記憶がないんです

ある程度は橙子さんに聞きましたけど」

「あなた達は小さい頃この屋敷で修行をしていたんです

私と貴方は許嫁と言う間柄でした」

許嫁がいたなんて初耳である

本人に記憶がないから当たり前では有るが

証拠が無ければ信じられない

「証拠なら有りますよ、貴方は七夜と刻まれたナイフを持っているはずです

それと同じ物を私も持っています」

言って懐からナイフを取り出した

同じ形をしているがナイフには青葉と刻まれていた

こんなナイフがこの世に2本ある時点で二人は知り合いだとは分かる

「でもこれだけで許嫁とはいえないんじゃないですか」

大体このナイフ自体が年代物だ

自分も紗那さんもそんな昔に生まれてないし

「見ててください」

そういって紗那さんはナイフの目釘を抜いて持ち手の部分を

パカリと開くと中には”志貴”と書かれた小さな貝殻が一つ入っていた

自分も同じ要領で持ち手を開く確かに貝殻が入っている

その貝殻は”紗那”と書かれていた

二つの貝をあわせるとピタリと一致する

「ほら、二つの貝殻は同じ貝のものです」

紗那さんは嬉しそうに言った

知ってる、歴史か何かで習ったけど昔の夫婦とか許婚は

なにかあって別れても相手を探すことの出来るようにこういう事をしたらしい

確かにこれでは反論のしようが無い

「それは認めますけどもう関係ないでしょう」

そう、もう僕は遠野家の生活が日常となってしまった

昔に戻れと言われてももう無理だ

「ええ、遠野の家で貴方が荒んでいたらなんとしてでも

遠野家から離していましたが貴方が幸せなら今のままでも問題有りません」

どうしてこの人は僕の考えていることを口に出さなくても答えてくるのだろうか

「僕の考えていることが分かるんですか」

「どうでしょうね」

いたずらっぽく笑って答えてくれない



「紗那は悟りの力があるんだよ」

「もう、両儀ったら

他の人には内緒にしておいてくださいね」

紗那さんは周りに能力を隠しているらしい

「悟りって人の心を読めるって言うアレですか」

「それは只の読心だ、本当の悟りは“読む”ってことを極限まで高めた能力だ

心を読むのは能力の一端にすぎない

本気になれば紗那は雨の粒がどこに落ちるかまで読めるんだ」

両儀さんが説明してくれた

「にしてもお前が七夜だったとはな

雰囲気が違っていたから分からなかったが

頑固なのはかわってないな」

楽しそうに両儀さんは笑いながら言った

・・・頑固なんて言われたのは始めてかもしれない




「話を戻しますが、貴方は七夜の家が遠野家に襲われたことを覚えていますか」

「そこら辺は覚えてますよ」

「その後貴方は遠野家に引き取られました」

「ええ親父が遠野家の長男と名前が同じだから引き取ったと聞いてます」

「それは真実ではありません、本当ならこちらの戦力を総動員しての

遠野家との戦いが起きるところでした

しかし貴方という人質を手に入れることでそれを回避したのです」

「七夜の次期当主が人質ではこちらも手を出せず、強行派もいましたが

青葉家と両儀家で押さえました」



「その後貴方は亡くなったとの話がありました

もっとも一部の者は遠野家からの連絡で貴方が生きている事を知っていましたが

未だに知らない人もいます」



「実際七夜志貴はもういません」

そう、過去、戸籍、どこを探しても七夜志貴はいない

いるのは遠野志貴という人間だけだ



少し間をおいて意を決したように紗那さんは話を続ける

「そして誠は七夜家の人間の生き残りです

誠は貴方のことをずっと想っていました

幼い頃から貴方の使用人となるため頑張ってきましたから・・・

先日まで貴方が生きていることは教えていなかったのですが

貴方が来ると分かったので誠に教えました」



「誠は喜んでくれました、あなた達の迎えも自分から名乗り出たほどです

同時に遠野家に対しての憎しみはとても強くなっていました」



七夜志貴という人物を社会上殺して遠野家の長男とすり替えたことが

よほどショックだったのだろう



「お願いです誠を救ってあげてください

彼女は誤解しているだけなんです

遠野家で幸せに暮らしている今の貴方を彼女が認めれば遠野家への

わだかまりはなくなるはずです」

と言うと深々と頭を下げた



「頭を下げなくても引き受けますよ今が幸せだって言うことを

教えてあげれば良いんでしょう」

「そう言ってもらえると助かります」

「では私たちもそろそろ休憩しましょう」

僕を呼び止めて顔を赤くした紗那さんは恥ずかしそうに聞いてきた

「あと遠野さんと呼ぶのは堅苦しいので・・あの・・・昔通り志貴君と呼んで良いですか」

自分としても堅苦しいのは嫌いなので

その提案はうれしい

「良いですよ」

僕は笑顔で答えた



居間に向かう途中両儀さんが話しかけてきた

「遠野、休んだら久しぶりに模擬戦をやろうぜ

どれくらい強くなったか見てやる」

「でも両儀さんは女の人だし気が引けるな」

「気にしなくて良いです、おもしろそうですからやりましょう」

紗那さんが笑顔で答える

「紗那お前が言うな」

「良いでしょ貴方が言い出したんだし」



「以外だな紗那さんはもっとおとなしい人だと思ったのに」

「いえ、こんな話し方が出来るのはあなた達の前だけです

私と正直に話してくれる人はほとんどいませんから」

「紗那は人前で演技してるだけなんだよ

昔は人前に出るのイヤだって泣いてたんだぜ」

両儀さんが笑いながら話す

女の人としての笑顔ではなく子供のような無邪気な笑顔

彼女のこんな笑顔は始めて見た気がする

「小さな頃でしょ、昔のことを言うなら貴方だって

志貴君に模擬戦で負けたって泣いていたじゃない」

「うるさい、今日は勝つ」

二人とも顔が真っ赤になってる

もはや子供の喧嘩だな

でも本音で言い合えるような二人がとても羨ましい

だけど僕にはもう無理だ8年も会わず、記憶も無い自分には

「そんな事はないです、実際両義さんとは4年くらい会っていませんでしたし

幼馴染ってそんな事で壊れるような仲じゃないでしょ」

僕の心を読んだのか紗那さんが答えてくれた



少しして紗那さんがまじめな顔で口を開いた

「貴方達の心が私は好きなの

両儀さんの心は風のように自然で他の人には何もないように見えるけど私には心地良かった

志貴君は・・・そうね家みたいな感じで私をいつでも暖かく迎えてくれる

二人に会えなかったら多分私は心を閉ざしていたでしょうね

貴方達が昔のままでいてくれて本当に良かった

それに思い出はこれからいくらでも作れます」

思い出はこれからでも作れる

その言葉が僕にはとても嬉しかった


「遠野何処に行くんだ、

居間はここだぞ」

ぼうっとして行きすぎてしまったらしい

っていうか俺この家始めてだし・・・・

もっと早く言ってほしかった



居間の中は和式でみんなお茶を飲んでいたが

翡翠と琥珀さんが見あたらない

中に入ろうとすると

「三人ともお茶はなんにしますかー」

後ろから聞き慣れた声が聞こえて琥珀さんと翡翠がお茶を運んできた

「琥珀さん達は誠さんを手伝ってるの」

「ええ、一人でこの人数の対応は難しいですから

何かお役に立てればと思って」

「私一人でも問題有りません」

後ろから誠さんがお茶菓子を持って歩いてきた

「誠さんさっきと言ってることが違いますよー」

誠さんの眉がつり上がり琥珀さんを見る

「冗談ですよ、冗談」

琥珀さんは笑いながら答える

「いつのまにそんなに仲良くなったの」

「お茶の手伝いをしているときです

同じ使用人として共通の話題はいろいろありますから

さっきも翡翠ちゃんと誠さんが志貴さんの寝顔の話でキャーキャー言ってましたし」

誠さんと翡翠は黙って顔を真っ赤にして下を向いてしまった

「それではお茶にしましょう」

紗那さんが琥珀さんに言うと残念そうにお茶を入れ始めた

まだ二人をからかいたかったらしい





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