思月空夢6

「ふう、まだ背中がひりひりする

まったくアルクェイドの奴」

温泉に浸かり呟くと

「志貴君、本当は嬉しいのでしょう」

紗那さんが話しかけてきた

「紗那さん心読んだの」

「読まなくても分かります、あのアルクェイドさんが

貴方の恋人なのですね」

「うん」

紗那さんは微笑んだまま話を続ける

「彼女は良くも悪くも無垢なひとですね

志貴君が引かれるのも分かります」

そんな横顔がとても綺麗で彼女に魅入ってしまう

「あら、志貴君は私のことも気に入っているの」

「やっぱり心を読んでるじゃないか」

笑いながら彼女に言う



「話は変わるけど、貴方が戻ってきたら話したい事があったの」

「どんなこと」

「本当は言う必要も無いけれど

どうしても言葉にして伝えたかった」

凛としたした顔つきで月を見ながら紗那さんが口を開く

「始めて会ったとき決めたの

貴方と同じ目線でずっと傍にいるって」



・・・でも、僕にはアルクェイドがいる

断らなければと思った

「分かっています、別に妾でも内縁の妻でも良いですよ」

本当ににっこりと紗那さんは笑う

母親のような慈愛に満ちた笑顔で、

こんな時どうしたら良いか分からない

「妾と言うのは冗談です

でも、傍にいたいと言うのは本当なの

貴方の”今”を知りたいし私の"今”も知ってほしい」





紗那さんはアルクェイドと同じで弱いところを

ストレートに突いてくる

「ちょっとのぼせたんで先に上がります」」

そう言って温泉を出ていく

「もう、そう言うところは両儀と一緒なんだから」

紗那さんが後ろで文句を言ってる

僕は聞こえないふりをして脱衣所に移動した



「惜しかったな、もう少しで遠野を落とせたのに」

式が少し離れた位置から声をかけてきた

「そのようなつもりはありません!

それでは、私も上がります」

私も式の方は見ずに呟き温泉をあとにする

「じゃあ黒桐俺達も上がるか」

「うん、でもタオルくらいは巻いてね式」

仕方なくタオルを巻いて風呂から上がる



着替えて座敷に移動した

今日来ていた服はボロボロだったので

着替えを用意したとのことだったが

洋服ではなく着物だった

何故か和服は落ち着く





座敷に用意されている食事は日本料理だ

橙子さんにし返しをされたのかアルクェイドが

涙目だったが何を聞いても

「志貴には言いたく無い」

としか言ってくれなかった

何故かニンニクの匂いがしたが

きかないほうがいいようだ



「みなさん、早く席に着いて下さい」

琥珀さんがみんなを席に着かせる



僕も席に着くと両隣にアルクェイドとシエル先輩が座った

秋葉は燈子さんに強引に

「秋葉お前はそこに座れ」

と言われて黒桐さんと両儀さんの間に座らされていた

「燈子、これは何のまねだ」

「お前と黒桐を隣にしたらベタベタするから

嫌がらせで座らせた」

両儀さんが明らかに不機嫌な顔をしてる



「冗談だよ、和食の作法をきちんと知ってるのは遠野と式、青葉くらいだし

あっちは二人居るからお前が秋葉に教えてやれ」

「何でこの人に私が教わらなければならないんですか」

「だって秋葉様は志貴さんに教えてくださいって言えないでしょう

それに教わるなら良く知ってる人の方がいいですよ」

琥珀さんに秋葉は説得され渋々と了解した


「それじゃいただくか」

食事に手をつける

隣を見るとアルクェイドが困った顔をしている

「どうしたんだアルクェイド」

「うーん、箸の持ち方は知ってるんだけど

やってみるとうまくもてないの」

「箸は力を入れずに持つんだ、不安定に思えるけど

力を抜いた方が安定する」

アルクェイドの手に箸を握らせる

「あっホントだ」

そう言って手を動かしていると

ぎこちない動きが五〜六回で普通に動くようになり

十回くらい動かしたときには自分と同じくらいスムーズに動いていた

「飲み込みが早いじゃないか」

「志貴のおかげだね」

「遠野君、私も教えて欲しいことがあるんですが」

今度はシエル先輩から呼ばれる

「何ですか、先輩は箸を使えましたよね」

「ええ、お箸は使えるんですが

どういう手順で食べれば良いんですか

その・・・ちゃんとした作法は知らないので」

そう言えば先輩が箸を持ってるのは

カレーうどんを食べてるとき以外見たことがない

・・・さすがに「和食はカレーうどんしか食べてません」

と言うのは恥ずかしいらしい



「作法はですね左手にご飯を持って食べたいものを好きなだけ

食べれば良いんです」

「結構適当なんですね」

そう言って僕たちは食事を食べ始めた



「あいつ性格は変わってないな

昔ここに作法を習いに来た奴に同じ事教えて

紗那にこっぴどく怒られてたのに」



「良いじゃない両義、今日は作法を習いに来てる訳じゃないんだから」

紗那が話しかけてくる

「秋葉さんもさっき志貴君が言った通りにして食べれば

不作法じゃないから大丈夫ですよ」



「ぎりぎりだけどな」

笑いながら言う

「それでは頂きます」

隣の秋葉は安心したように食事を始めた

食事を終えて居間で休んでいると

「皆さん、晩酌しませんか」

琥珀さんがお盆に日本酒とつまみを持ってきた

「僕たちのほとんどが未成年なんですけど」

「兄さん良いじゃないですか晩酌くらいしても」

おまえは中年のオヤジか



周りを見ると琥珀さん達がみんなにお酌をしている

みんな酒は始めてと言った感じがしない

・・・近頃若者は酒を飲むのが普通なのだろうか

まあ自分もそうなのだが



「志貴様どうぞ」

そう言ってお猪口を渡してきたのは誠さんだった

「ありがとう誠さん」

「実はこれから明日お帰りになるまで翡翠さんと

立場を交換していただきました」

「そうなの」

翡翠を見ると申し訳なさそうな顔をしている

何があったかは知らないけど翡翠がこんな

用件を聞くなんて驚いた



「はい、夕食の準備をしているときにお話しをしていたら

今日と明日だけなら変わっていただけると言われまして」

少し顔を赤くしながら誠さんは

「ですからご用件があれば私に言ってください

どの様なことでもお聞きします」



僕は恥ずかしくなって注いでもらったお酒を一気に飲む

「志貴君、何でも聞いてくれるからって

夜伽しろとか言うのはダメだからね」

後ろから紗那さんが抱きついてきて危うく

お酒を吐き出してしまうところだった

「そんなことは言いません」

「でもちょっとは想像したんじゃないの」

「それはまあ・・」

「紗那様、今日はお客様がいますのでそのくらいにしておいた方が

よろしいのでは」

誠さんが注意すると

「貴方は志貴君の使用人ですから

その意見は聞けませんね」

笑顔のまま紗那さんは答える

僕の顔のすぐ横に紗那さんの顔がある

ずっと僕に抱きついたままで薄手の着物のため

背中に胸の感覚が分かる

よからぬ想像が頭をよぎるが必死で押さえる

紗那さんには筒抜けだから分かってるんだろうけど

「頑張ってるんだ、偉いね」

僕の耳にこそこそと紗那さんが呟いた

読まれてたか



「ちょっと紗那いつまで志貴に抱きついてんのよ」

不機嫌な顔をしたアルクェイドがこちらを見ている

「そうね、ならアルクェイドさんに抱きつきましょうか」

そう言って押し倒さんばかりの勢いでアルクェイドに抱きつく

「きゃーちょっと待ってよ」



「紗那さんはいつもこうなの」

誠さんに聞くと

「はい、理性も記憶もあるのですが性格が

変わる上に誰にでも抱きついてしまいます」

「まあ、紗那様を嫌っている方は別ですが・・・

もしかすると紗那様は心が読めるのかもしれません」

少し不安そうに誠さんは話す



「ちょっと志貴助けてよー」

アルクェイドの方を見ると紗那さんが

胸を鷲掴みにして

「やはり外国産は違いますね、

食事の違いでしょうか」

まじめな顔で考えてるし



「紗那、それがお前の地なのか」

両儀さんがからかう

「どうでしょうね、でも貴方は安心してなさい

そんな小さな胸は揉む気にならないから」

「お前とそんなに変わらないだろ」

両儀さんが怒って反論するが紗那さんはくすくすと笑って答える

「私は良いのよ体とのバランスがちょうど良いから」

「このやろ、自信過剰だな」

「貴方と一緒よ」



二人は意味の内会話をそのまま続けている



翡翠が酌てくれたときにそっと

理由を聞いたが

誠さんの熱意に負けたとしか

聞けなかった本当に何があったんだろう





「さて、明日もあるからそろそろ寝るか」

燈子さんがみんなに告げる

周りには黒桐さんと鮮花さんが寝ていて

とっくりが三十本近く置いてあった

潰されなかったのは両儀さんくらいか



「それじゃ秋葉様も就寝いたしましょう」

琥珀さんは翡翠を担いで秋葉と出ていった



「ではアルクェイド様とシエル様も寝床に案内致します

志貴様、紗那様、両儀様は少々お待ちになっていて下さい」

「じゃあこの二人も連れてくね」

アルクェイドは黒桐さんと鮮花さんを肩に担いで連れていった。





数分たって誠さんが戻ってきた

「それでは寝床にご案内いたします」

寝床に通されるとそこにはぴったりとくっついて布団が三つ

並んでいた

「三人で寝るの」

「はい、紗那様が三人で眠りたいとの事でしたので」

「でもみんな大人だし男性と女性が一緒って言うのは

まずいんじゃないですか」

「大丈夫です、志貴君が我慢すれば何もありませんから」

「俺もかまわないぜ」

まあ単に寝るだけだし

二人が良いと言っているからしょうがない

「分かりました、今日はこれで寝ます」

「お休みなさいませ」

そう言うと誠さんは部屋から出ていった



布団に入り天井を見上げると一カ所だけ板を打ち付けた部分があった

「紗那さんちょっと良い」

「何ですか」

「あの天井の部分だけど」

「ああ、あれは両儀と志貴君が本気で喧嘩したときに

貴方が蹴り抜いたのよ」

「後にも先にも二人が本気で喧嘩したのを見たのはそのときだけです」

「つまらないことを考えてないで寝ろ

明日もそんな調子でいて死んでも知らな」

両儀さんはそう言うと僕と反対側を向いて寝てしまった

何か気に障る事でも言ったのだろうか

「それじゃお休み」

僕も目をつぶる

忘れてたけど明日は命がけの戦いになる

嫌な予感はするがいつもの事だし・・寝よう

お酒が効いていたのかすぐに眠りに落ちた











SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送