思月空夢7

朝、久しぶりに自分から目が覚めた

何故か息苦しいし腕も動かない

すぐ近くから寝息がするので紗那さんの方を振り向くと

顔が当たりそうになるくらい近くに紗那さんがいて

僕の腕を抱きしめるように眠っていた



首だけを動かし胸の方を見ると僕を枕にして両儀さんがうつぶせに眠っている

いったいどんな寝相をしたらこうなるのだろうか

とにかく身動きがとれないのでそのまま目をつぶっていると

ふすまが開いて誰かが入ってきた

気まずいと思い寝たふりをする

僕の近くに来ると腰を落として

「志貴様」

と小さく呟いた

声からすると誠さんのようだ

誠さんの息使いが聞こえる

それがだんだん近くなっていって唇に何かが触れた

少しすると離れて

「皆さん、おはようございます」

何事もなかったかのように誠さんに声をかけられた

「んん、おはよう誠さん」

「おはようございます

着替えはこちらに置いておきますのでお二人の目が覚めましたら

居間の方にお越し下さい」

そう言って誠さんは出ていった

「二人とも起きてるんだろ」

「気づいていたのですね」

「お前の心音が一気に跳ね上がったからな」

両儀さんと紗那さんは目だけを開けて答えた

「それにしても両儀さん、どうやったらそんな寝方

出来るの」

「俺も知らん、ただ寝心地は良かったな」

「昔はこうやって良く昼寝をしていましたからね」



「おかげで寝覚めが良い

さっさと着替えて居間に行こうぜ」

「ええ」

両儀さんと紗那さんは僕がいるのに全然気にせずに

着替える

僕は布団にくるまったまま二人を見ないようにしていた

「おい、遠野早く着替えていくぞ」

両儀さんがせかす

「後から行くから先に行って良いよ」

「なんだよそれは」

「両儀、殿方には事情があるのよ

知らない訳じゃないでしょう」

「そうか、じゃあ先に行ってるぞ」

少し顔を赤くして両儀さん達は外に出ていく

最後に紗那さんが

「誠のこと許してあげてくださいね」

とだけ僕に言った



居間にみんながそろうと翡翠が呼びに来た

「食事の用意が出来たので皆様座敷の方にいらしてください」



朝食は豪勢でかなりの量だったが何とか胃に押し込んで

居間で一休みしていた



「それでは移動しましょうか」

いよいよ仕事か

秋葉達は屋敷に残っているのかと思ったら

「鮮花達も見学に来い、後学のために役立つ」

と燈子さんに言われて一緒について来ることになった

ちなみに今日はアルクェイドも固有結界の護符を持っている



三十分も歩いただろうか

周りの雰囲気が変わり騒然としている

その中心に寺があり幾重にも注連縄がされていて

その周りで火をたいて祈祷している人がたくさんいる

その中でも一番偉そうな祈祷師に紗那さんが話しかけた

「約束通り来ました

結界を解いていただけますか」

「分かった、でも本当に大丈夫か」

「ええ、両儀さんの他にも色々な方が協力してくれますから」

「それじゃ結界を解く、担当者以外はこっちにある結界の中に入ってくれ

この中なら安全だ」

「秋葉、眼鏡を頼む」

「兄さん、帰ってきてくださいね」

手を振って答える

紗那さんと誠さんは結界に入ろうとしていない

「紗那さんと誠さんも結界に移動して」

「いいえ、あなた達にだけ任せるようなことは出来ません」

「でも」

「遠野、大丈夫だ紗那は俺達と同じくらい強い」

両儀さんが口を開く

「そう言うことです

あと両儀、今日はこれを使いなさい」

両儀さんに刀を渡す

「へえ、本物の正宗か良くこんなの持ち出してきたな」

「それでは結界を解くぞ」

「はい」

みんな一斉に答える

祈祷師がかけ声と共に錫杖をならすと注連縄が切れ、

周りに幽霊のような物があふれ出す

近づいてくるそれにナイフをたてる

「遠野、そいつらは只の思念体だしっかり意志を保てば

害はない」

「それよりも実体化している厄介な奴らを殺せ」

他の奴らは式と遠野のサポートに回れその二人でなければ

アレは破壊出来ん」

燈子さんが的確に指示を出す

「橙子さん、実体化してる思念体ってどうすれば倒せるんですか」

「相手がこちらに干渉するためには実体化する

逆にこっちが攻撃すれば相手にはダメージを与えられるわけだ」

なるほど、要は人を相手にするときと変わらないわけだ

「勘違いするなよ相手は心臓をつぶされても即死しない、本質は思念の塊だからな

まあ、俺とお前には関係無いけどな」

こっちの考えてる事がわかったのか両義さんが声をかけてきた

・・・両義さんは思念体と戦った事でもあるのだろうか

そんな気がした

「まあそう言う事、相手の限界以上にダメージを与えれば自然と消える

ってことね」

アルクェイドも戦った経験があるのか教えてくれた





僕たちは思念体の固まりを駆け抜ける

建物の入り口付近に来ると数人の人影があった

近づくとその人影には見覚えがあった

「こいつらロアに吸血鬼にされた奴らじゃないか」

「そうね、吸血鬼の苦痛は並じゃないから実体化する位

濃い怨念になるでしょうね」

アルクェイドが感情のない声で話す

「遠野君」

敵の仲から聞こえた声を探すと

見覚えのある人影が立っていた

「弓塚さん、何で」

「遠野君、彼女は外見が同じだけです」

「じゃあ弓塚さんの行方不明は」

「はい、彼女は吸血鬼にされたんです

私が浄化しましたから間違いありません」

シエル先輩も普段の表情とは違い

埋葬機関の執行者としての顔になっていた

「皆さんは先に行って下さい

吸血鬼の排除は私の仕事ですから」

「でも先輩一人じゃこの数の相手は無理ですよ」

相手は増えてすでに50人以上いる

「大丈夫よ志貴、シエルは埋葬機関の一人だし

吸血鬼とか悪霊の類の相手なら得意だから

それに貴方は最優先で先に行かないといけないでしょ」

「わかったよ

先輩、無理はしないでね」

そう言うと遠野君たちは奥を目指して走る



一言

「今回は貴方に感謝します」

始めてアルクェイドに礼を言ったような気がする

アルクェイドがああ言わなければ遠野くんはここに残ってしまっただろう



「気にしなくても良いわよ、志貴にあの女の子の相手なんて出来る

わけ無いんだから」

と言いアルクェイドは遠野君のあとを追いかけて行く

遠野君達が吸血鬼達に接触する寸前に

黒鍵を投げつけて道を造る

「あなた達の相手は私です

その迷える魂を救ってあげましょう」

吸血鬼達を見据えてそう叫ぶと両手に黒鍵を構える

相手も此方を標的に定めたようだ

・・・これだけの人数相手に黒鍵を投げつづけるのは不可能だ

被害を覚悟して格闘戦で行くしかない



先ほど投げた黒鍵のあげる炎の中から一人の少女が

姿を現す

ダメージはあるが戦闘力の低下は望めそうもない

「弓塚さん、貴方はよほど遠野君の事を想っていたのですね」

独り言のように呟くと私は敵の中に飛び込んでいった



「アルクェイド、本当にシエル先輩一人で大丈夫なのか」

「もう、志貴ったらしつこいんだから

アレくらいの数なら多分大丈夫よ

ただ、あの弓塚って女は怨念の桁が違ってたからシエルでも手を焼くでしょうね」

「だったらどうして先輩だけ残してきたんだ」

声に少しだけ怒りが混じる

「しょうがないじゃない、見た感じあの女の子を無情に殺せるのは

シエルと燈子くらいだし手を抜いたら殺されるわよ」

「ずいぶんと言ってくれるな」

「本当のことでしょ

以前の私なら何も感じずに殺せたけど志貴に会ってからは

ああ言うのは相手にしたくなの

志貴の言葉で言うと“かわいそうだから”かな」

少し困惑した様子でアルクェイドが答える

彼女はかわいそうと言う感情がどういう物か良く理解していない

で口にしたらしい



「どうやら今度は私が残る番のようだな

お前達は先に行け」

そう告げると私は走るのをやめる

「久しぶりだなアルバ、お前の私に対する怨念は

実体化も出来ない程度なのか」

「気づいていたんだねアオザキ」

どこからともなく声がして目の前に人型が現れる

「久方ぶりの再会だが時間が無くてね

いきなりだがさよならだ」

手持ちのトランクを開く

中から無数の触手がアルバを襲うが触手は

アルバの体をむなしく通過するだけだった

「ははは、見たかいアオザキ

私は完全には実体化していないんだ、魔術を行う私には直接相手にふれる必要はないからね」

そう言うとアルバは手をかざし呪文を詠唱する

次の瞬間トランクは炎に包まれた

「ほう、実体化も出来ないとは魔術以外も二流と言うことだな」

アルバは眉をつり上げて答える

「そんな挑発には乗らないよ、この状態なら私の勝ちは間違いないからね

今度は君が死ぬ番だ」

アルバは手をかざし先ほどの呪文を唱えた

が私の目の前で炎ははじけた

「私がルーンも専攻していたのを忘れたか」

アルバの顔に焦りが浮かぶ

「アルバこれからが本当の戦いだ」



「あいつが相手なら俺も残っていればよかったな」

形となった人影を見て両儀さんが言った

「どうして、あの人は燈子さんに恨みがあるんじゃないの」

「あいつは黒桐にケガをさせた

そのあと燈子に殺されて黒桐の分の仕返しが出来なかったんだ」

「珍しいわね両儀、貴方が他人のために何かをするなんて」

「黒桐は非力だし仕返しする奴じゃないから代わりにしてやるだけだ」

不機嫌そうな顔をして両儀さんは紗那さんの問いに答えた



「今度は俺の番か」

目の前の人影を見てそう呟く

間違いなく白純里緒だ

「いいえ、これ以上だれも進ませるつもりは無いみたいです」

「その通りだ」

奥から長髪の男がゆっくりと歩いてきた

その男が誰かアルクェイドと僕は知っていた

「まだしぶとく存在してたのね、ロア」

「久しぶりだな姫君、その女が言った通りここから先には誰も行かせん」

「まさか二人だけで私たちに勝てるつもりなの」

「それほど自惚れてはいない、特別ゲストがいる」

僕たちの前に二人の人影が出来る

一人は秋葉、もう一人は僕だった

「これが今回の特別ゲストだ」

「何で志貴君が」

ロアは楽しそうな顔で話を続ける

「こいつも秋葉も内面に反転衝動を持っている

それを押さえ続けていたんだろうなその衝動がここに思念として

集まっていたんだ」

「それを俺が実体化させてやった」



「そんな、秋葉にも反転衝動があったのか」

普段の秋葉にはそんな衝動があるとは思えなかった

「ちっ、本当に鈍いんだな」

「遠野家は人以外の血を引いている

その血が持つ衝動が秋葉にあるのは当たり前だろう」

「よく実体化できるほどの衝動を

お前達は押さえつけてるもんだ」

「まあ、俺も大変だったけどな反転衝動と俺っていう二つの衝動があるのに

四季って奴はそれを押さえつけてたんだ」

「だからお前を使ったのさ」

「どういうことだ」

臨戦態勢のまま質問する

「四季はある程度お前のことを知っていたんだ

お前、遠野家の人質だったらしいな

そんなお前を四季は助けようとしていたんだ」

「だから四季に言ってやったのさ

“こいつは人質として生きていくより殺してやった方が救われる”

ってな」

「そうしたら善悪の区別も付かないガキだったな

本当にお前を殺しやがった、あとはお前の知ってる通りおもしろいように

壊れていったぜ」

おかしそうに笑うロアを許せなかった

いや、許せないのは俺自身か

あいつが俺のことを知った上で助けようとしていたこと

二つの人格を押さえていた苦痛を知らなかったこと

全てが許せない

「ああ、敵の認識を間違えてたよ」

「どういうことだ」

ロアが分からないと言った顔で口を開く

「俺が殺す相手は四季じゃなくてロア、お前だって事だ」

ロアに襲いかかろうとしたとき横を掠めて誰かが通り過ぎた

「貴様が志貴様を」

誠さんがロアに襲いかかる

「ふん、外野が邪魔をするな」

片腕で誠さんをつかみあげる

「貴様さえいなければ」

つるされた状態で苦しそうに誠さんは吐き捨てた

「どいつもこいつも志貴、志貴って

ウザイんだよ」

ロアの口が醜くつり上がる

「そうだ、おまえに志貴を殺させてやろう」

顔に手を近づけると手から何かが誠さんに吸い込まれていった








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