思月空夢8


全てが吸い込まれるとロアは誠さんを放した

誠さんはうつろな目で僕の方を見ている

「ほら、あいつを自分だけの物にするんだろ」

誠さんは頷くと此方にゆっくりと歩いてきた



「ロア、誠さんに何をした」

「そいつの欲望を解放してやっただけだ、

俺は元々概念の存在に近いからな」



もう目の前に誠さんが来ている

「志貴様を私だけの物に・・・」

そう呟く誠さんに危険を感じてとっさに横に跳ぶ

次に瞬間に左腕に鋭い痛みが走った

どうやら誠さんの刀で少し切られたようだ

「どうして」

「貴方がどこにも行けないようにするためです

安心してください命までは取りませんから」

誠さんが正気を失った目でそう答える



「やめなさい、誠」

「女、お前の相手は俺がしてやる

俺の本能がお前を危険だと感じているからな」

ロアが行く手を塞ぐ

「お前達は姫君の相手をしてやれ

何故かは知らんが今の姫君は弱っている

これならお前達でも勝てる」

志貴君と秋葉さんの偽物にロアが指示を出す



アルクェイドさんならあんな偽物に負けるはずはない

それよりも誠を止めなければ

「邪魔をしないで下さい」

「そうはいかない、あいつには芋虫みたいになってもらうからな

そうだ、芋虫になったあいつの目の前で

お前も同じようにしてやる、手足を一本づつ引き千切ってな」

この人を私は許せない

だから思い切り余裕のある声で答えてあげる

「そんなことが出来るかどうか試してみますか」



ロアは私が動揺すると思いこんでいたようで

驚いていたが

すぐに怒りの表情に変わっる

「お前の動きはここに来るまでに全部分かってるんだよ、

本当に、ここに来られたのが不思議なくらいだ」

自分が優位だと思っているのかロアは余裕で口を開く

「お前、俺に勝てると思っているのか」

「ええ、貴方は私に触れる事が出来るか心配した方がいいですよ」



「その口を醜く歪ませてやる」

よほど頭に来たのか言い終わるか否かで飛びかかってくる

悟りの力を少しだけ解放する

ロアは私の心臓に一撃を加え動きを止めるようだ

私は攻撃をぎりぎりまで引きつけて避ける

そのまま右手を相手の胸に添えると

そのまま体中の力を集中して押し出す

「ぐっ」

どうやら声も出せないらしい

なぜなら胸がポッカリと穴が開いている

気孔と体術によって岩をも砕く一撃を出す

私の習得している技の中で最大の攻撃

これで勝負は決まったかと思ったがロアは後ろの飛び退いた

「・・・・なるほどな、動きが遅いわけじゃなくて無駄がない訳か」

何とか声を出してロアは言った

「だけどこの程度じゃ俺は倒せない」

そう言って周囲の思念体をロアはつかむと穴の開いた所に詰め込む

見る間にそれが体の一部となっていった

「さすがに驚いたようだな、これでもお前は勝てると思っているのか」

「他の思念を押さえつけて自分の思念に服従させればこんな事も

可能なんだ」

得意げにロアは語っている

さすがに不味い、これでは周囲の思念体全てを相手にするような物だ

両儀や志貴君ならともかく私には不利だ



「・・・・・しかたありませんね」

私は悟りの力を解放する決意をした

力を解放すると“全て”の事が読めるようになる

それは必要、不必要関係ない

私の精神が耐えきれなくなれば壊れてしまうだろう

その前にこの男だけは倒す



頭になだれ込む情報からロアの行動を読みとる

そして、護符で概念武装したナイフを使い

周りの思念体ごと切り裂いてゆく

「いくら武器を概念武装しても無駄だ」

ロアが腕で薙払ってくるがその腕を切り落とす

すぐにロアは周囲の思念体を使って再生する

そんなことを何回繰り返しただろうか

私は息が上がっている

「もうそろそろあきらめろ」

ロアの攻撃が来るナイフを投げて右目を潰すがかまわず突進してくる

これが最後、もう私の精神は耐えられそうもない

攻撃を避け、手をロアの胸にかざし打ち抜く

「最後の悪あがきか、効かないってのに無駄なことを」

すぐに周囲の思念体を使って再生しようとする

しかしロアが再生する事は無かった

ロアの表情は凍り付いている

「何だ、周りに何で無いんだ」

ロアの周りにだけ思念体が無くなっていた

「今頃気づいたんですか、貴方の負けですよ」

「女、お前ここまで”読んで”いたのか」

「ええ、ですが私もこれ以上は戦えませんから

引き分けかもしれませんね」

そう言ってロアの頭を打ち抜いた

「志貴君のところに行かないと」

踵を返し歩き出そうとしたが

私も意識を保つのは限界だったらしく

プツンと目の前が暗くなった



「やめてくれ誠さん」

もう何度目か分からない誠さんの攻撃を避けて訴える

誠さんは両儀さんには劣るがかなり強い

と、誠さんの動きが止まる

僕の訴えが届いたのかと思ったが違っていた

誠さんの口が醜くつり上がる

「あの女、思った以上にやるようだな」

男のような口調で話し出す

「誠さん」

「もうそんな奴はいない、俺が精神を支配したからな」

「ホントはお前のために切り札として取って置いたんだが

あの女が俺の本体を倒しやがったからこっちに移ってきたんだよ」

「紗那さんのことか、じゃあお前は」

「そうだ、今はこの体がロアだ」

さっきまでとは違い容赦のない攻撃で吹き飛ばされる

顔を上げると目の前にロアが立っていた

「あとはこの女の望みをかなえてやればこの体は俺の物だ

お前を芋虫みたいにしてやる」


ロアはゆっくりと刀を振りかぶり振り下ろそうとするが

刀を振りかぶったまま動かなかった

「女、まだ邪魔をするのか」

ロアの後ろで必死に刀を握っている紗那さんがいた

紗那さんの顔には表情が無かった

返事もない、その様子は人形のように見える



抜き身の刀を素手で握っているため血が滴っている

ロアが強引に引き抜こうとするが強く握っているため引き抜けないようだ

「お前は向こうに行ってろ」

そう言って紗那さんに蹴りを入れる

紗那さんは両儀さんの方に吹き飛ばされていった



その時に目の前に何かが飛んできた

手に取ってみるとそれは指だった

人形の指のように綺麗な形

本来のあるべき所から離れてしまった指

紗那さんは蹴り飛ばされても刀を放そうとしなかったらしい



白純との戦いを楽しんでいると此方に何かが飛んできた

ドサリと音がする

横目にそれを見て呟く

「へえ、珍しい物が飛んできたな」

動く気配がない、相手の隙をついて蹴り飛ばし

その隙に飛んできた物を見る

呼吸はしているが目はうつろで項垂れている

「あいつ悟りの力を解放したのか」

吐き捨てるように独り言を言う

「おい式、遊んでる最中によそ見をするなよ」

以前戦ったときよりも数段動きが早い

命の取り合いの出来る相手としてこの戦いを楽しんでいた

他の奴らは負けないと思っての事だったがどうやら間違いだったらしい

こんな事なら早々に決着をつけるべきだった

「おい、遊びは終わりだこっちも忙しくなった」

「なんだいそれは、まるでいつでも勝てたみたいな言い方じゃないか

君が本気かどうかくらい僕には分かるよ」

少し不機嫌そうに白純が答える

「ああ、本気だったよこのナイフで戦うのはな」

そう言って獲物を刀に持ち替える

「刀を持ったくらいで僕に勝てるの」

白純がおもしろそうに此方を見ている

襲うなら今がチャンスだったってのに本当にこいつは殺し合いが分かってない

刀を抜くと周りの思念体が掻き消すようにいなくなる

「凄まじい霊格だなさすがは正宗だ」

「くっ卑怯だぞ何なんだその刀は」

白純が歪んだ顔で口を開く

これが只の刀ではないことを実感したらしい

「そんなこと殺し合いに関係ないだろ

何を持とうが関係ない、俺から見ればその運動能力の方が反則だ」

「ちくしょう」

白純は飛びかかってきた

あとのことを考えてない捨て身の攻撃

それが奴の選んだ最善策だったのだろう

「もう少し経験を積むべきだったな」

飛びかかってくる白純に刀を合わせ線をなぞる

白純は地面に着地することなく消えていった

「くっ」

どうやら私も未熟だったらしい

すれ違いざまに肩をえぐられた

痛みをこらえ紗那の方に近づき担ぎ上げると

力無く項垂れる

どうやら何も認識できないらしい

「・・・ばかやろう」

紗那がこの状態になったらいつ元に戻るか分からない

まあ、シエルと橙子がいるから何とかなるかもしれないが



遠野の方に歩いてゆくと

シエルや燈子の他に秋葉や鮮花達もいた

「よう、こっちは片づいたぜ」

「両儀さん、無事だったんだ」

遠野が変わらない様子で話しかけるが

みんなボロボロの状態だ



「ああ、紗那がこの状態だけどな」

そう言って紗那をおろす

遠野が目に入ったのか紗那はおぼつかない足取りで

遠野に近づくと抱きついた

いや、抱きつくとは言えないかもしれない

腕をかけて倒れ込んだように見えた

「うわ」

遠野が支えきれずに倒れ込む

「ちょっとあなた何をするんですか」

「まて秋葉」

紗那の状態が分かってない秋葉を近くに呼ぶ

「何ですか両儀さん、紗那さんの肩を持つんですか」

不服な顔で抗議してくる

「そうじゃない、今の紗那は精神がボロボロな状態なんだ

例えれば好きな男の前で何日も陵辱されたような状態だ」

「紗那さんは何かされたんですか」

驚いた顔をしている

「例えだ例え、それくらい精神が壊れかけてるって事だ

紗那は能力を解放した、以前解放した時は

もっと非道くて半年くらいあの状態だったんだ」

秋葉は何かを感じたようで黙ってしまった

「紗那を癒すのは遠野に任せるしかないな」

そう言って座り込む

肩の傷は思ったよりも深くて止血しなければ気を失いそうだ

秋葉も移動しようとしたが立ち止まった

後ろ姿でどんな顔をしているか分からない

「ご忠告感謝します

お礼に止血をして差し上げますが傷口を焼くようなものですから

このあと無理をして気絶しても知りませんよ」

そう言って此方を振り返ると秋葉の髪が赤くなっていた

傷口が冷たく感じる、すぐに秋葉は歩いていってしまった

傷口を見ると出血が止まっていた

「一応、感謝しておく」

聞こえたか分からないが礼を言った



「ちょっと紗那さん」

声をかけても反応がない

只僕の顔を見て上に乗っているだけだ

「彼女は精神が壊れかけてます

そんな状態でも遠野君は分かるんですね」

「先輩、何とかならないの」

「出来ないこともないですが遠野君にも協力してもらいます

どんなことでも我慢できますか」

「俺なら大丈夫だから先輩、お願いします」

「分かりました」

シエル先輩が何か呟くと指を紗那さんに当てた

すると紗那さんは胸に顔を埋めて寝てしまった

「はい、これで終わりです」

「何をしたんですか」

「良い夢を見てもらってます」

「精神の治療には効果的なんですよ

あと遠野君は紗那さんが起きるまでベットになっていて下さい」

「ずっとですか」

「ええ」

にこやかに先輩は笑うと最後に一言

「好きな人の胸で眠るのは女の子の最高の幸せですから

それじゃ他の人の治療をしてきます」

シエル先輩はそう言って歩いていってしまった



まあこれくらいの我慢で済むなら安いものか



「黒桐、お前まで良く来たな」

「うん鮮花達が後を追いかけていくって言うから

一緒に来ちゃった」

「良く鮮花が許したもんだ」

「僕を連れてかないと行かせないって交換条件を出したから」

それは交換条件ではなく脅迫というのではないだろうか

何はともあれ少し体を休めることにした





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