思月空夢9

「まったく、兄さんは誰にでも優しいんだから」

兄さんの胸で寝ている紗那さんを見て

自然とそんな言葉が出てしまった



少し前

結界で待っているのが我慢できなくなって私は鮮花や琥珀達を連れて後を追ってきたのだ

「やっぱり我慢できません、兄さん達の後を追いかけます」

「ちょっと秋葉さん、燈子さんに言われたでしょう」

「関係ありません、鮮花行くわよ」

「ええ、兄さんは危険ですからここで待っていてください」

黒桐さんは深くため息を付いて

「分かった、けど行くなら僕も行く」

「兄さんに戦闘は無理です」

鮮花が声を張り上げる

「鮮花、お前だって思念体が見えないじゃないか

それでも行くって言うなら一緒だよ」

「良いですよ、では黒桐さんも一緒に行きましょう」

秋葉さんが待っていられないと言う感じで答える

「もちろん私たちも良いですよねー」

「当然です、いやと言ってもつれていきます

それに翡翠なんて兄さんのこと以外頭にないようだし」

翡翠はこうしている間にも一人で飛び出していきそうな

顔をしている

ホントに兄さんのことになると見境がないんだから

「仕方ないですね、兄さん危なくなったらすぐ逃げてくださいね」

鮮花の条件をのんで付いて行くのを許可された

「それじゃ行きますよ」

「秋葉さんだっけ、志貴君の眼鏡だけ渡してくれないか

ちょっとやることがある」

祈祷師に言われて渋々眼鏡を渡すと燈子さん達が向かった方にみんな走っていった



「ふう、何とか間に合いましたね」

50人以上いた吸血鬼の最後の一体を倒したところで

持っていた最後の黒鍵が折れた

「私は眼中にないって訳

武器もないしボロボロの体で私を倒せるの」

最初に投げた黒鍵以外は全て格闘戦に使用したそれで何とか雑魚は倒せたものの

最後に一人弓塚さんがのこっていた

「もちろん貴方を倒しますよ、雑魚との戦闘を黒鍵のみで済ませられたので

予定通りですし」

「貴方には特製の武器がありますから」

そう言ってカソックを脱いで叫ぶ

「セブン」

カソックの形が歪み塊になる

その塊は無骨な銃器に形を変えてゆく

「これが貴方用の武器ですよ」

弓塚さんを見据えて冷たく話しかけると

彼女の顔にあった余裕が無くなった

「何よそれ」

「私の持つ最強の武器です

これで貫けば貴方でも一撃で

無に帰るでしょう」

実際当たれば間違いなく倒せるだろうが

今の彼女に当てるのは困難だ

それを感じた故の駆け引きとして口にした

いくら彼女が強くても一般人の思考しか持っていない

その証拠に弓塚さんは完全に怯えきっている

「やだ、まだ遠野君と全然話をしていないのに」

「弓塚さん以前も言いましたよね

貴方はもう存在してはいけない者になっているんです

ですからあきらめてください」

吸血鬼となった彼女を葬った時と同じ言葉をかける

その言葉がきっかけとなったのか彼女が逃げ出す

「遠野君の所には行かせません」

少しだけ躊躇したが後ろから第七聖典を打ち込む

弓塚さんが消える寸前に

「遠野君」

とだけ言ったように思えた

第七聖典を打ち込まれた時点でもう声を出せなくなっていたため

口だけが動いていたが私には分かった

「キリスト教は人生において救われると言う教義ですが

もし死後の世界があるとしたら私は地獄行きかもしれませんね」

誰に言うわけでもないが自然とそんな言葉が口から出た

私は武器をおろしその場に倒れ込む



後ろから複数の走る足音が聞こえる

「これ以上死徒の相手は無理ですね

覚悟を決めますか」

「誰が死徒ですか、何ならとどめを刺してあげても良いですけど」

思いっきり不機嫌な声で答えがもどってきた

「秋葉様、冗談にならないくらいシエルさんの傷は

惨いですよー」

そんなやりとりが聞こえる

みんな大人しくは待っていられなかったようだ

「それよりも琥珀さん、何とかならないんですか」

黒桐さんが琥珀さんに問いかける

「うーん、危ない仕事って聞いたからお薬は持ってきたんですけど

それで間に合うか分からないですよ」



「大丈夫です、私は人より回復力がありますから

琥珀さんお願いします」

そう言って起きあがり服を脱ぐ

「兄さん、いつまで見てるんですか

あっち向いてて下さい」

黒桐さんが顔を真っ赤にして後ろを向く

どこかの兄妹と一緒だと思ったらおかしくて

笑いが堪えきれなかった

「ふふ」

「どうしました、お薬がしみましたか」

薬を塗ってくれていた琥珀さんに聞かれてしまった

「いいえ、何でもありません」

何事もなかったように取り繕う



「はい、おしまいです」

「それじゃみんな行くわよ」

「ちょっと秋葉さん、シエルさんをおいてくつもりですか」

「ええ、その方ならもう大丈夫でしょうから」

「だけど」

「黒桐さんもう大丈夫です


私もあなた方のお守りとしてご一緒します」

琥珀さんの薬のおかげで何とか動けるようになったので

彼女たちと一緒に行くことにした

まあ、止めても良かったんですけど

聞くような人たちじゃありませんしね







パリンと音がして持っていたアミュレットが砕ける



「どうしたんだ、守るだけでは勝つことはできないぞ」

「お前の動きを覚えていたんだ、情報収集は戦いの基本だろ」

そう言ってたばこをくわえる

「あきらめた方が良い、こと戦闘に関しては君が私に

かなうはずが無いのだから」

私に攻撃手段がないと思っているのか近くに寄ってきた

「もし助けて欲しければ下僕になると誓うことだ」

私の目の前で下品な顔がそう言った

懐から筒を取り出し念を込める

筒からコインが飛びだしアルバの顔に当たる

「そんなに死にたいのか」

アルバの顔から余裕が消え怒りの形相となる

「死ぬのはお前だ、何でコインがお前の顔に当たったか分からないのか」

「えっ」

驚いた顔で間抜けな声を出している

先ほど飛び出したコインが私の手の中で剣の形に繋がってゆく

「なんだそれは」

「今回の相手は思念体だと分かっていたからな

中国の銭剣と言うのを私なりに作って持ってきたんだ」


銭剣とは中国の導師が使う武器でキョンシーと言われる吸血鬼を倒すために

使われると言う話だ



「こいつは概念武装した武器だからな

例えお前でもこいつで斬られればただではすまん」

「確かに驚いたが普通の身体能力しかない君が

私を斬れるのか」



「それはこれから試してみる所だ」

アルバに飛びかかり銭剣を振り下ろす

銭剣が当たる瞬間にアルバは後ろに飛んで攻撃を避けた

先ほどまでの余裕が消えぽたりと額から血を滴らせていた

「相変わらずの女狐め、自身の戦闘力は必要ないなどと言っていたのは嘘か」

「人聞きの悪いことを言うな、事実戦闘は最も不得意だし

荒椰に比べれば半分にも満たない程だ

しかし上を目指す物なら自然と不必要な能力も向上してしかるべきだろう」

「お前の目指すところと私の目指すところの高さの違いだろうな」

「そんなはずはない」

「違わない、最初は私よりも先に人形師として高見に上ろうとしていたろう

それが途中から私に勝つ事を全てとしてしまった」

「つまり私を目標としてしまったんだそれがお前の間違いだ」

どうせ攻撃用の魔術を研磨するなら

魔法使いのあいつを目標にすれば良かった物を

「そんなこと在る物か」

斬りかかるとアルバは避けようとせずに

手をかざした

その手から光が走る

「ふん、相打ちねらいとは良い度胸だ」

そのまま私の意識は消えた



「燈子さん」

近くで黒桐と鮮花の声が聞こえる

全く、人が休んでいるのにうるさい兄妹だ

「今起きる

そんなに騒ぐようなことか」

そう言って起きあがる

右肩に違和感を感じ見てみると

方から先が真っ黒になっていた

どうやら私の攻撃が先に当たりアルバの攻撃がそれたらしい

それでも防壁を超えて殺傷するあたりなかなかの威力だ

「バカな奴だ目標さえ間違えなければ良かったものを」

燈子さんどうしたんですか」
鮮花が不思議そうな顔で聞いてくる



「何でもない」

「それなら良いですけど」



「それでは燈子さん、治療をしますから少しの間しずかにしてくださいね」

シエルが私の腕を治療しようとして驚いた顔をする。
「貴方・・・・」

何か言おうとするが目で“黙れ”と合図した

「・・残念ですが、今の私には治療できません

屋敷に戻ってから治療します、それでよろしいですね」

「ああ、問題ない」

「それよりも式達が心配だ今回の黒幕だと思っていた奴が

こんなに早く出てくるとは、最悪の場合“あいつ”と戦う事になりそうだ」

「私も同意見です燈子さんの予想している人物と同じかは分かりませんが

黒幕がいるのは予想できますから」

普段の表情とは違い険しい表情を見せる二人



「二人とも先を急ぎましょう」

珍しく黒桐が焦っている

「お前達は先に行け私たちもすぐに追いかける」

「はい、燈子さん無茶をしないで下さいよ」

黒くなった腕を見て黒桐が私の心配をしている様だ

「ここにいる時点でお前の方が無茶をしている

私の心配をするよりも早く式の所に行ってやれ」

「はい、分かりました」

少し顔を赤くして黒桐は秋葉達をつれて先に進んでいった



「さて、貴方に説明をしていただきたいのですが」

「何の話だ」

「貴方の体は全て作り物なんですか?」

「ああ、さすがだな並の魔術師よりも卓越した眼力だ

その若さで司教になっただけのことはある」

「ほめ言葉として受け取っておきます」

「確かにこの体は私が作った物だが思考はオリジナルだ

ならば本人と判断しても問題あるまい」

「貴方も永遠に挑もうというのですか」

「さて、黒桐達の後を追うとするか」

「無視しないでください!・・・・・まあいいです

今回は不問にしておきますから先へ行きましょうか」





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